鬱には効用がある。
そんなバカな。
鬱は病気であり、人生における不幸の一つに過ぎない。
「鬱には効用がある」なんて言われたら、こう反応する方のほうが多いかもしれません。
僕自身は、精神科医のような鬱の専門家ではありません。
ただ、20年以上にわたって人の心を探究し、今では個人セッション家として、人の心の在り方を整えるサポートを生業にしています。同時に、僕自身も鬱の傾向があります。
そんな人生という現場の中で見えてきた鬱に対して思うところを、敢えて発信してみることにしました。
専門家ではないから扱える内容があり、そこも見落とせないものがあると考えています。
今回は、鬱の原因から、仮に鬱状態になってしまった場合の抜け出し方についての提案をしつつ、鬱には効用があるということについて考察していきます。
入院するほどではないにしても鬱状態にある方、またはご自分の大切な方がそういう状態にあるという方の参考になれば幸いです。
今回の内容は前編・後編と分けてお届けします。
前編(本稿)では、鬱になる背景や、回復の妨げになるものについて考察します。
後編では、回復に向けての提案と、鬱の効用について考察していきます。
鬱になる原因・きっかけ
では、まずは鬱の原因について探ってみましょう。
基本的には、PCの動きが過熱状態になって遅くなっているのに似ています。或いはストレージが一杯になっている状態とも似ています。アンバランスからの回復のための保護機能が働いている状態が鬱と考えています。
では、どんな「熱」が人間の中に溜まってしまったのでしょうか。
いくつかの例を挙げてご紹介しますが、全体として急き立て続けてきたことからのアンバランス状態が招いていると言えます。
陽に傾き過ぎ
一つ目は「陽」に傾き過ぎていることです。陰陽の陽です。
自然界には四季があって、循環しています。鬱の反対は躁ですが、鬱が冬(陰)なら躁は夏(陽)に似ています。
当然ながら、ずっと夏のままとかは不自然で、循環を繰り返すのが自然です。
陰と陽を行ったり来たりする状態が、人間としても健全なんです。元気な時もあれば落ち込んでいる時もある。しなやかな形で、その行ったり来たりを繰り返していれば、実は問題にはなりません。
ただ、現代の価値観の特徴として「陰(=冬)」の状態から目を逸らしたがる傾向があります。
例えば会社員などをしていると、常に「陽(=夏)」の状態でいることが求められます。「今日は、低気圧がきてるせいかな、あまり元気が出ないので仕事は適当に切り上げます」みたいなことを大っぴら言える雰囲気の職場なんて、普通は無いことが、それを表しています。
常に同じクオリティで働くことを求められている。それは人間にとっては、不自然な負荷をかけ続けることを意味します。しなやかな形での行ったり来たりを否定しています。そんなことが可能なのは機械だけです。
しかも、どちらかというとテンションが強めの状態でキープすることを求められるから、更に事を深刻にしてしまいます。
まるで、「息を抜いたら死んでしまう」と思っているかのようです。
息を抜かないほうが死に近づいてしまうのにね。
こうやって、いつの間にか陽の状態を無理矢理キープし続けてきた結果、その反動で、ある時に何かしらのきっかけからガクッと陰のほうに切り替わってしまう。それが鬱です。
容量オーバー
二つ目は容量オーバーです。
一つ目と同じようにPCで例えると、ストレージが一杯になってきて、動きが悪くなっている状態に似ています。
情報化社会と言われて久しいですね。スマホの普及も手伝って、私たちが受け取る情報量は膨大になりました。どんどん更新されるSNSのタイムライン、次々に飛び込んでくるニュースの通知。
これらの情報量は、江戸時代と比べると、どのくらいまで増えているかご存知でしょうか?
ある研究によると、現代の私たちが1日に受け取る情報量は、江戸時代のそれの約1年分にも及ぶそうです。365倍です!
江戸時代というと、200年、300年前のことです。これほど短期間での情報量の増加に、人間の身体や脳が追いつけるとは思えません。
私たちは睡眠中に、日中の情報を整理していると言われています。そのプロセスで夢を見るとも考えられています。身体(脳)の機能的に、情報量がキャパオーバーになっており、睡眠中の情報の整理も追いつていない可能性が考えられます。
睡眠時間そのものも、現代人は短くなってきていますね。
こうして、処理しきれない量の情報が溢れかえって動けなくなった状態が鬱であると言えます。
いずれにせよ、過剰に急き立てることを重ねた結果、揺り戻し作用で鬱の状態を引き起こしているのが、現代の鬱の主な原因と考えています。
回復を妨げるもの
鬱から回復するためには、最初の捉え方が重要になります。
妨げになるのは「鬱は良くないものである」という最初の認識です。
良くないものであるという捉え方から始めると、次に「それなら、何とかして治さなくちゃ」といった発想になります。また、無事に経過して良くなったりすれば「良かったね」と誰もが言います。これも裏を返せば「鬱は良くない状態」というメッセージにもなっています。やはり「治さなくちゃ」となってしまう。
「治そう」という発想が、パラドックスを起こしてしまうわけです。
もちろん、治ることが良いことに変わりはないのですが。
「治さなくちゃ」となるのは、「治るように」自分を急き立てているということです。急き立て続けてきたことが鬱の原因なのに、更に急き立てている。
過熱してしまったPCに、どうにかしなくちゃと、あれやこれや操作を繰り返していたら、最終的には壊れてしまいます。人間も同様、急き立て続けていたら、治るものも治りません。
つづく
鬱の効用についての前編でした。
前編は、鬱の原因と、回復に向けて妨げになるものについてでした。
後編では、抜け出し方に関して、そしてタイトルにもなった効用について考察していきます。
HSP気質の人は、鬱になりやすい傾向がありますし、必要な方に届きますように。
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