「はぁ〜、気持ちいいなぁ」
新緑の今の季節が一番好きだ。
僕の住んでいる北鎌倉の良さは、そのバランス感だと思っている。現代的な感じがある程度ありつつ、自然も割と近くにあるところだ。その例に漏れず、我が家のすぐ近くにも、ちょっとした森ある。この季節は、そこに入ると、まさに緑のトンネルが待ち受けている。ここを歩くのは、新緑の季節が一番なのだ。
そんな森を抜けると、山あいの住宅地に出るのだが、その一角に小さなカフェがある。
入ると4〜5席のカウンターにテーブルが3つ。
「あら、いらっしゃい!」
明るい声が響く。カウンターの中に立つのは、そのカフェを営む御年85歳のお姉さま。こちらの顔を見るなり、「カフェオレでいいのかしら?」と。たまにしか来ないのに、いつも何を頼むか覚えていてくださることに舌を巻く。
「パンが余ってるんだけど、よかったら食べない?」
「えぇっ、いいんですか?!」
と言いつつ、もうニヤニヤが止まらない。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
商売というより、老化防止がお店を続けている主な理由だからなのか、いつも気前の良いオマケをいただける。
特に、ここのパンは絶品なのだ。
オーナーさんの手作りなので、余計なものを使っていない。これを2枚切りくらいに分厚くカットして、カリッと表面を焼いて出してくれる。バターをたっぷり塗って食べるのが、このパンの美味しい食べ方。食べ応えは軽いのに、決してスカスカではないので、分厚いカットでもぱくぱく食べれてしまう。
「口幸」と書いて「こうふく」というのは、この瞬間のためにある言葉だと思う。
このオーナーさん、数年前にステージ4の癌が見つかったのだそうだ。手術自体は成功するも、一時は危篤状態になって生死を彷徨ったのだと。そんな過去があるなんて想像もできないほど今はお元気なので、尚のこと驚かされる。
そんな彼女が、何かにつけて口にするのが「人は簡単に死なないものよ」
一人ひとりには定められた寿命がある。それを全うするまでは、どんなことがあっても人は死なないのだと。癌の手術の後は、ご本人も流石に「これまでか」と思ったというほど大変な状況だった。そこをくぐり抜けてきたというお話しを聞いた後では、どんな理屈でも勝てない感じがする。
「ある人からね、『生き残ったってことは、何かお役目がまだ残ってるってことだ』って言われたのよ」
はい、こうやって知り合えたことが、まさに、そのお役目を果たしてくださってるってことです♪
その日は、帰りにパンを1斤買って帰ったのは言うまでもない。
コメント