ある男性が、ひょんなことから、直観に導かれるように奥多摩への移住を決めるまでの物語。
ちょっと小説風に書いてみることにしました。
物語は、2017年の夏から始まります。
※こちらは、以前のブログに書いたもののリライト版です。
更新履歴
2020年3月31日:Part 5 追加
2019年12月7日:Part 4 追加
2019年9月9日:Part 3 追加
2019年8月29日:Part 1、2 追加
「内なる声」との出会い
(1)
その日、ボクが、その神社を訪れたのは、ふと時間が空いたから。ただ、それだけが理由だった。
天気の良い7月のある日のことだ。
その神社は、ボクが住んでいる地域(昔の地名では武蔵の国)の総社で、初詣に行ったり、時にお祓いを受けたり。
厄年の時は、前厄から後厄まで、ここで厄払いをしてもらってもいる。
要は、ボク自身にとっても、お気に入りの場所なのだ。
いつも通り鳥居を潜り、参道を進み、拝殿の前に立つ。
そして、お賽銭を投げ入れ、お辞儀と柏手(かしわで)という手を叩く作法に入る。
一般的には二礼二拍手(にれい にはくしゅ)といって、2回お辞儀をして、2回手を叩くのだけど、ボクはそれぞれ3回ずつするのが流儀だ。
このお参りの仕方は、ある友人から教わったのだけど、別の友人から聞いたところによると、昔は、みんなボクのお参りの作法のほうが主流だったそうだ。
まぁ、個人的な拘りは回数はさて置き、僅かな時間だけど、神社で手を合わせると、何かスッキリするような感じがする。だから、神社を訪ねるのは好きなのだ。
(2)
いつもなら、このまま神社を後する。そして、まぁ罰当たりなことに、神社に足を運んだことなんか、あっという間に頭の中から追い出されて、
どこのカフェに入ろうかな?
なんてことを考え始めるのが常。
もしかしたら、カフェに入るほうが本当の目的なのではないかと思ってしまう。
でも、その日は、いつもと違った。
ふと、境内の裏手に通じる道が目に留まったのだ。
「おや? こんな道あったっけ?」
何回もこの神社には来ているのに、まるで、初めて視界に入ったかのようなインパクトを感じる。不思議。
「まぁ、せっかくだから、時間もあることだし、何があるのか見てみるかな」
ボク自身の無意識の反応に興味が湧いた形で、その道に足を踏み入れてみることにしたのだ。
そこで、まさか、そんな体験をするとは予想だにしていなかった。
(3)
そこは、拝殿の裏手へと通じている小道で、道なりに小ぶりな社が幾つか並んでいた。
競馬場が近いのと関係あるのだろうか。馬を祀っている社もある。
「ちょっと、あの馬の人形は、薄気味悪い感じがしちゃうな。。。」
その一つひとつの前で、軽く手を合わせて廻る。
そうして社殿の裏手まで来ると、今度は、ちょっとした林が広がっていて、中には、かなり立派な大木も何本か佇んでいた。
その1本1本を見上げて、ボクも佇む。そうして、また次の木の下へ。
最後に、見るからに立派で、いかにもご神木という感じのイチョウの木の下に佇んだ時だった。
突然、何の前触れもなく、
お前は……
頭の中で「声」がボクに呼びかけてきたのだ。
(4)
お前は、来年の7月に引っ越すことになる。
へ?!
あまりに唐突なことだったが、誰かの声が頭の中で響いているという事実に違和感は感じられなかった。
というよりも、感じる余裕すら無かったのだ。
その内容に衝撃を受けていたということが大きいかもしれない。
いやいや。ちょっと待ってよ!
まだ去年の9月に今の所に引っ越してきたばかりなんだよ。2年もしないでまた引っ越すなんて嫌だよ!
ボクも、頭の中で思わず応えていた。
今の家に引っ越す前の所も、僅か9ヶ月程で引っ越さなければならなかったという経緯があった。大家さんの都合だった。
(しばらく、今の場所に腰を据えて住みたい)
そう思っていたところだったから、頭の中で声がしていることに違和感を感じることよりも、
(引っ越すなんて、とんでもない!)
という心境のほうが勝っていた。
お前は、来年の7月に引っ越すのだ。
有無を言わさない感じだった。
(譲る気が無いな……)分かりました、分かりました。じゃあ、百歩譲って、来年の7月に引っ越すにしても、一体どこへ引っ越すっていうの?
出雲系の神社があることが目印だ。我らのネットワーク利用して、その場所へ導く。
確かに、今いるこの神社は出雲大社の主神・大国主が祀られている、いわば出雲系の神社だ。
出雲系の神社が近くにある物件になるということだろうか。
と、ここで唐突に始まった「対話」は、やはり唐突に終わってしまった。
(どこに移ることになるのか、もっと具体的に教えて欲しかったな……)
いずれにせよ、衝撃的な出来事だった。
独り神社を後にするボクの記憶には、「来年の7月に引っ越す」こと。
そして「目印は出雲系の神社はがある場所」という2つが深く刻み込まれた。
シンクロが起き始める
(1)
同棲してみたいかも
ある日、ひーちゃんが突然、こんなことを言い始めた。
ボクの付き合って1年ちょっとになる恋人だ。
「したいかも」なんて、凄く中途半端な言い方をしているけど、前々から望んでいたことを言ってもらえたボクの心は踊り立った。
いや、でも、まずはいったん冷静に話を聴こう。
でも、どうしたの? そういうの、ずっと嫌がってたじゃない。
彼女は古風というか、保守的というか。
これは、付き合い始めて分かったことだけど、手を繋ぐの一つ取っても、ある種の拒絶反応があって、それらを一つひとつクリアしてきた過去がある。
(彼女は一定の距離が必要な人なんだな。)
それが、ボクの抱いている彼女に対するイメージだった。
そんな彼女が「同棲しよう」なんて自分から言い出すなんて、驚天動地と言っても大げさではなかったのだ。
気持ちとしては同棲したくないよ
(やっぱり、そうなんだ。)
でも、やってみないと分からないじゃない。下手したら、このまま停滞させちゃうことになって、それも、違うかなって。
彼女なりに考えてくれているのが嬉しかった。
(2)
それからボクは、一緒に暮らす候補地を探し始めた。
今、住んでいる所は、お互い東京の武蔵野のエリアだ。この地域で探しても良いし、どこか全く違う所へ向かっても良いし。
(そういえば、奥多摩はどうだろう?)
去年の夏。
彼女との初めてのデートは、ボクにとっても初めての奥多摩だった。
その時、何故だか分からないけど、その土地に一目惚れしてしまったボク。
以来、何やかやと理由を作っては、奥多摩に足を運ぶようにしていた。
(移り住みたい、なんて思ってたっけ)
(3)
もっと言えば、最近は不思議なシンクロニシティも続いている。
ある勉強会に参加したら、隣の席の方が奥多摩在住の方だった。
都心の会場で、参加者も僕を含めて4人。それが隣の席に座る。すごいご縁だと思った。
さらに鳥肌ものだったのが、別のイベントでのことだ。
やっぱりボクの隣に偶々座ったのが、とし子さんという、これまた奥多摩を舞台にして、イベントを開催しているという方だったこと。
とは言え、その日は、あまり突っ込んだ話はできずに、「また、ゆっくり話しましょうね~」なんて言って、その場は別れた。
ところが、その僅か2日後。
ふと時間ができたので、散歩に出た。でも、特に行く当てもなかったので、例の「声」を聞いた神社に何気なく足を運んだ。
そしたら、神社の前で、バッタリとし子さんに会えてしまったことだ。
ボクはもう、あまりの衝撃に鳥肌が止まらない。でも、可笑しくて、お互いに笑いが止まらなかった。
「わたしも、本当はこっちに来るつもりじゃなかったのよ。でも、急に思い立って、こっちまで出てきたの」
「これはもう、ボクが奥多摩に移住したい、ということだけじゃないよな。むしろボクのほうが奥多摩に呼ばれているような気すらしてきた……」
(これも、例の神社のネットワークってやつかな?)
氣学
(1)
「やっぱり、7月に引っ越すべきだよ!」
突然ひーちゃんから、ちょっと興奮気味のLINEが届いた。一体ったいどうしたんだろ?
「氣学で調べたら、来年7月に引っ越すのが吉なんだって! 滅多にないくらいの吉のタイミングだよ!」
「氣学って何だっけ?」
「氣学って、昔の人が、いつ、どの方角に移動したり、引っ越したりするのが吉なのか、凶なのかについて占うやつだよ」
あー、あれのことか。
(2)
納得したら、傍と気が付いた。
「7月と言えば、一番最初に言われたのと同じタイミングだね。まさか占いでも、7月って出るなんて。それに、北西って言えば、正に奥多摩方面じゃない?!」
ネットを使えば、実際の地図上で、氣学で示すその方位が具体的にどちらなのかを調べることもできるらしい。
「ひーちゃん、地図の調べ方を教えてよ。」
「えぇ~っ!? いいよ。」
相変わらず、天邪鬼だ。
みひろに手伝ってもらって、出てきた地図を見たら、もう絶句してしまった。
単に奥多摩方面というだけではなかったから。
奥多摩に向かって走るJRの青梅線のルートが、一度も逸れることなく、見事にスッポリと収まっていたのだ。
もう、ここまでくると、驚きを通り越して呆れるしかない。
「こんなことって、あるか。普通??」
そう戸惑いながらも、
「もう奥多摩に引っ越せって言われてるな、これ。」
そんな予感も感じているボクだった。
「ひーちゃんは、自分は南西がどうのって言ってるけど、一緒に引っ越してくれるのかな?」
ボクは内心、そんなことを考えていた。
予告された神社
(1)
ボクは、奥多摩に向かう電車に乗っている。
とし子さんが奥多摩を案内してくれるという。
先日、バッタリ再会したのがきっかけで、今日、改めて奥多摩で会うことになったのだ。
待ち合わせの沢井駅に着いた。
天気は上々。
「いつも、ここに来ると、最初に神社にお参りするの」
と駅前の昔の街道をスタスタと歩き始める彼女。
歩きながら、音符が飛んでるように見える背中。
遅れないようにと着いて行くと、白い石造りの鳥居が見えてきた。
八雲神社というらしい。
そういえば、最初に大國魂神社で
「出雲系の神社の近く住むことになる」
なんて言われてたけど?
(2)
後で調べてみたら、八雲神社は、スサノオノミコトを祭神とする神社だという。
スサノオノミコトはアマテラスの弟。
荒くれ者で素行が悪く、周囲の神々から恐れられ、高天原を追放されたが、出雲に下ってからの彼はそれまでとは全く違う歩みをする。
それが、ヤマタノオロチ退治の神話などになっている。
「八雲」という名前はスサノオノミコトが詠んだ日本初の和歌と言われる歌、
「八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに八重垣作る その八重垣を」
にちなんでいるという。
つまり、「八雲」というのは出雲を意味するということだ。
もしかして、例の神社で伝えられたのは、この神社?!
(3)
「この辺りは、地元の酒造が殆どの土地を持っているって噂。多分、そことの繋がりが無いと、簡単には物件は借りられないと思うよ」
とし子さんが教えてくれた。
確かに、不動産の情報を見ても、沢井の近辺は全く物件が出てこない。
「ここかもしれない」という予感から、前進する雰囲気が何だか出てこない。
「違うのかなぁ」
ボクは軽い焦りを覚え始めた。
住む場所が向こうからやってくる
(1)
年が明けて2018年を迎えた。
年明け頃から、ボクは仕事の関係で新しいチャレンジをしている。
そのプロセスで、その道の先輩方と話しをさせてもらってきている。
今日はその流れで、同業の先輩の一人、ふみさんに時間を作ってもらい、オンラインで色々と話を聴かせてもらうことになっている。
「ふみさん、こんばんは」
「どうも、こんばんは。よろしくね」
「いえいえ。こちらこそ、お時間をいただけて嬉しいです」
ま、先輩の話を聴こうということではあるが、現時点では具体的なテーマがあるわけではない。
シンプルに先輩と接することで、その方から出るエッセンスを体得しようくらいの意図があった。
だから割と雑談的な雰囲気で始まったのだが、しばらくして、ふみさんが思い出したように、
「ところでさ、キミって奥多摩に引っ越したいんだって?」
「え? あ、はい。そうなんですよ」
と答えながら、ボクは内心苦笑していた。
近頃、こうやって勝手に奥多摩の話題が出てくるようになってきた。
でも今日は、その話がしたいわけじゃなかったからだ。
「オレの知り合いで、さちこちゃんって子がいるんだけど」
「はい」
「彼女は今、奥多摩に住んでいるんだけど、そこから引っ越すから、代わりに住む人を探してるって言ってるんだよね。よかったら紹介しようか?」
「えぇっ、マジですか?!」
流石に、そんな話があることは全く予想だにしてなくいので、驚いてしまった。
「それは是非、繋いで欲しいです!住む場所を見つけるのが一番のネックだったんですよ。」
「じゃあ、今度、繋がせてもらうね」
(2)
そうこうして、その対話を終わった数分後、そのふみさんからメッセージが届いた。
「どうしたんだろう?」
『つい今しがた、さっき話した、さちこちゃんからオレのほうに、たまたま連絡があったよ。ちょうど彼女のことを話してたばっかりだし、早速、繋がせてもらうね』
なんというタイムリーさだろう!
こうして、運命の歯車が目に見えて回り始めたのを感じ始めた。
(3)
それから数日後、さちこちゃんと話をする日を迎えた。
お互い、はじめましての挨拶を済ませ、早速、彼女の状況とかを聴かせてもらった。
家の様子とかロケーションとか。
「なるほど。ちなみに、さちこちゃんは、奥多摩でどんなことをしてきたんですか?」
「そうですね…奥多摩に人を招かせてもらって、奥多摩の魅力をお伝えすると同時に、自分らしく生きるヒントも見つけてもらえたらって思って、色々とイベントを催したりですね。」
「マジか! ボクが奥多摩に行ったらやろうと思っていることにソックリですよ、ソレ!」
鳥肌がゾワゾワと全身に広がるのを感じていた。
ああ、この人の住んでいた家を引き継ぐのは、本当に運命かもしれない。
(4)
数日後、興奮冷めやらぬ状態ではあるが、時間が経って、ボクは少し冷静さを取り戻しつつあった。
と、同時に、少し迷いも生じてきていた。
そんな中、スマホで、さちこちゃんから聞いた家がある辺りの地図を眺めていた。
そしたら、ふと、家の近くに神社のマークがあることに気づいた。
そのマークをタップしてみると、「八雲神社」という名前が飛び出てきた。
「うわ、こんな所にも八雲神社があったの?!」
沢井にあることをは既に知っていたが、そこからさほど離れていない川井にもあるなんて!
「ああ、やっぱりここが最初に予告された場所に間違いないな」
そう確信したボクは、腹をくくることにして、さちこちゃんに、自分がそこに住むことにしたと連絡をするためにメッセージアプリを開いた。
(つづく)
あとがき
いかがでしたでしょうか。
小説風に書くという初の試みですが、書いていると、いつもと違う感覚が新鮮で面白いです。
少しずつ書き足していきますので、続きをお楽しみに☆
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