この本によって、僕の視点(物の見方)が、ガラガラと崩されています。「憑き物が取れた」という感覚のほうが近いですが。
最近は、考察が深まったり、言語化が進んだりする本との出会いが多かったのですが、こういうふうに影響を受ける本は久しぶりです。
要は、考えさせられる。そんな本をご紹介します。
本書が生まれた経緯は、まるで吉幾三さんの名曲「俺ら東京さ行ぐだ」のパラドックスみたいです。
ちなみに、成人発達理論に対する知識がなくても読める本です。
本書が誕生した経緯から思い出した唄
成人発達理論が少しずつ企業社会の人材育成や組織開発に取り入れられ ある状況の中で、それらの理論が成長を促すというよりも、成長を強要する形で、すなわち目には見えない乱暴な形で利用されるケースが見られるようになってきました。
(本書p.5)
(中略)
そうした状況を鑑みて、本来健全な成長を促すための成人発達理論が、どういった社会的な風土や仕組みによって、間違った形で活用されてしまっているのか、また私たちに成長疲れを引き起こす社会的な要因は何なのかを分析し、そうした状況の改善と成長疲れからの解放に向けた実践的な処方箋を提示していければと思います。
本書を出版するに至った背景が、こんなふうに綴られています。それで思い起こしたのは「俺ら東京さ行ぐだ」の唄。
この曲は、言わずと知れた吉幾三さんの代表曲の一つですね。
曲の中で、こんな歌詞が出てきます。
俺らこんな村いやだ 俺らこんな村いやだ
東京へ出るだ
東京へ出だなら 銭コア貯めで
東京で牛(ベコ)飼うだ
この歌の主人公は、田舎暮らしが嫌で都会に出たいのに、結局は田舎と変わり映えのない暮らしを目指してしまう。
今までとは違った文脈に移行しようとしているのに、考えていることや実際にやっていることは、今までの文脈から出られていない。
ちょっと笑えるけど、皮肉めいた話ですよね。
歴史上、繰り返されている?
もう一つ思い起こすのが『歎異抄(たんにしょう)』です。
鎌倉時代の僧・唯円が著したものとされています。唯円は、浄土真宗(鎌倉仏教の一つ)の祖・親鸞の弟子です。
彼は、親鸞の没後、親鸞の遺した教えに間違った解釈をされてしまっていることを嘆いて、この本を著したと言われています。
親鸞が遺した教えは、当時としては全く新しいコンセプトでした。旧態依然となっていた状況から次に進むことにその真骨頂があった。
それを、親鸞グループメンバーは、従来の枠組みの中で運用したり解釈したりしていたのでしょう。
まさに東京で牛を飼おう、みたいな発想。
新しい考え方や価値観というOSを社会にインストールしようとするも、結局、アップデートされないままに運用されて、本来の意図とは違う使われ方をしてしまう。
歴史の中で繰り返されている、人類の挙動なんですね。
本書も、言わば「加藤洋平さん版の歎異抄」である、とも言えそうです。
“成長疲労”と “ハッスル・カルチャー”
この本は、“成長疲労”をキーワードに展開されています。
「成長しよう」という雰囲気が、見えない圧力のように際限なく私たちを駆り立て、絶え間なく成長しようと動き続けるため、疲労が蓄積し続けてしまう。
そこから抜け出すための“処方箋”として、様々な角度から語られています。
「疲労しているなら、休めばいいじゃないか」となるかもしれませんが、そこも注意が必要だと言います。
私たちが休む時、ただ休むこと、そのこと自体が目的になっていないというのです。私たちが休む時、大抵、こんなことを考えていませんか。「休むことでパフォーマンス発揮できる」などと。やはり「成長しよう」という圧力のために、休むことが利用されています。
このように、生活のあらゆる場面がハッスル・カルチャーによって消費されている……。
変な汗がダラダラと出てきそうです。
これでは、「疲労」が溜まっていく一方ですね。
自分のことで恐縮ですが……
僕自身も成長疲労に悩まされた時期がありました。2017年からライフコーチとして活動を始めたのですが、それからの数年後です。
あれを学び、次はこの講座……と、次々と食指が伸びていました。好きなことでもありましたし、最初は楽しいのです。でも、カップルが次第にマンネリを感じ始めるかのように、段々と学ぶことにシンドさを覚えるようになった経験がります。
そこから、休むほうに状況が全振りに近いことをしました。この1年くらいから少しずつバランスが取れつつあるのを感じています。まだまだ試行錯誤の連続ですが。
余談ですが……
たまたま見つけた、このショート動画。
“ハッスル・カルチャー”って、こんな状態なのかもしれません。
リラックスしているはずのシチュエーションでも、実は全力疾走中みたいな。
彫り出されているかのよう
前項でも触れましたが、僕は、ハッスル・カルチャーからは比較的自由なところにいるだろうと思っていました。
ところが、本書を読み進めていくと、「その感覚は本当ですか?」と問いかけられたかのように感じさせられるページが次々と。
具体的に「こう変えよう」という提案ではなく、余計なものを削ぎ落とそうとしてくれているみたい。
「木や石の中にある姿を彫り出しているだけ」みたいに言う彫刻家がいます。そんなような形で、私たち一人ひとりの内側にある姿を彫り出そうとしてくれているかのようです。
自分が「彫り出されて」いる真っ只中は、不安や違和感を感じたりします。今まさに、そういうものを感じながら、この記事を書きました。
まとめ
加藤洋平さん著の『成人発達理論から考える成長疲労社会への処方箋』についてご紹介しました。
今、仲間が声がけをしてくれ、数人が集まって、この本の読書会を企画してくれました。2週間に1度くらいのペースで(オンラインで)集まり、同じページを読みながら対話するような感じで進んでいます。
一人で先行して読み進めていましたが、改めて何人かで読み返すのも楽しみです。
そして、この本から、僕の中のどんな姿が彫り出されてくるのか。楽しみにしています。
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