僕は、昨今の「殺菌ブーム」に違和感を感じている。
普通の生活の場を無菌空間にしようとしているような流れだ。
本書の表現を借りると「クモを殺すのにクラスター爆弾を使う」(文庫版P.403)ようなことをしていると感じています。
人間は、その誕生以来、ずっと細菌と共にあった。
もし、人間の体は細菌の存在が無いと生きていけなくなるのではないか。
そんな危惧感を抱いていた時に、偶然、この本の存在を知り、手に取ってみました。
この本が手元に届いて、目次を開く。
文庫本とは思えないその分厚さと中身の濃さに圧倒された。
「こ、これは僕でも読めるのか?!」
意を決して読み始めたら、なかなかに読ませる本で、どんどんページが進んでいった。
この本の原著は2015年に出版されました。
読み終えての僕の変化
やはり最初に抱いた危惧は正しかったと確信したし、それ以上の心境の変化が自分に起きています。
時代が変わって、オンラインで人と会う機会が増えた。
だからこそ、リアルで人と会う大切さを痛感するようになった。
特に、親しい人、気の合う人、尊敬する人などには、積極的にリアルで会うことを大切にしたいと考えるようになった。
(何故、このように考えるかは後述します。)
一人ひとりの体内に一つの生態系がある
私たちは、体内に200兆、約4000種の微生物(細菌)が住み着いている。
私たちは微生物たちに頼るように進化してきた。人体から微生物がいなくなったら、真にヒトの部分はわずかしか残らない。ヒトの部分は10%でしかない。
(文庫版P.44)
微生物たちに、いわばアウトソースして、自力では消化できない栄養素などを吸収できる形に変えてもらっているということだ。
もはや、体の中に一つの生態系が出来上がっていると言わざるを得ない。
私たちは、進化の歴史の中で、彼らの力を借りる形で、進化のスピードを劇的に上げてきたのだ。
DNAを書き換えるよりも効率が良いからだ。
ここで、ふと疑問が過ぎる。
フラクタル的に、地球を一人の人体にコレスポンデンスすると、私たち人間は細菌に相当することになる。
地球は、どんな意図を持って、その「体内」に人間を住まわせる選択をしたのだろうか?
現代病は感染症?という解釈
肥満、過敏性腸症候群、アレルギー、自己免疫疾患、自閉症など20世紀後半から先進国で急増している病気は、人体内に存在する細胞の90%を占める微生物の様相が従来と変わってしまったことで生じている、というのがこの本のテーマだ。
(文庫版P.422)
要するに、例えば肥満などは感染症のようなものかもしれないということだ。
脂肪を吸収しやすくしてくれる微生物が体内に多い人が肥満になっていくということ。
空間を共にし、同じ食事を口にし、同じトイレを使う。
こうすることで、互いの微生物を交換し、肥満なら肥満になりやすい人が増えていく。
実際、肥満の人が多い地域や分布などを見てみると、感染症の広がり方とそっくりなのだとか。
人の在り方や精神状態にも影響しているかも
これは、何もネガティブなことばかりではないだろう。
体型や体質、果ては精神状態まで微生物によって私たちは左右されるのであれば、例えばスタイリッシュな人や、もしかしたら高い精神状態にある人も、特有の微生物の様相を持っているみたいな可能性だってある。
よく、「あなたの身近にいる人が、今のあなたを決める」みたいなことが言われているが、このことが微生物レベルでも説明できるではないかと、ある種の感動を覚えている。
だからこそ、冒頭で述べたように、リアルで人に会うことの大切さを改めて感じているのだ。
「ああ、今、尊敬する人と微生物を交換している」
なんて、何ともマニアックな思考が働くようになった笑
食事に対する意識も変わった
人と会うことの大切さ関する意識だけでなく、食事に対する意識も変わった。
体内に微生物を住まわせ、消化吸収の手助けをアウトソースしている。
ということは、私たちのする食事は、同時に、体内の微生物の餌でもあるのだ。
脂肪の多い食事を繰り返していると、脂肪の分解吸収が得意な微生物群に力を与えることになる。
口にするもので微生物のバランスが変わり、それが心身の健康状態を左右することになる。
何を食べるか。
そして、できるだけよく噛むことについても、改めて大切にしたいと思うようになった。
科学者としての冷静な視点
著者はイギリスのサイエンス・ライターが主な肩書だ。
文章の書き方は一般人でも理解しやすいように工夫されているが、その態度はやはり科学者のそれ。
安易に「こうすれば良い」とは言わず、分からないところは「分からない」とハッキリしている。
僕にもアレルギーはあるので、思わず「もっとアドバイスが欲しい!」なんて言いたくもなったが、それは僕の弱さからくる声であって、彼女の態度に責任は無い。
むしろ、科学的な素晴らしい態度だと感じます。
まとめ
『あなたの体は9割が細菌』の書評記事でした。
私たち一人ひとりの中に、一つの生態系があるということを知り、今まで、なんとなく精神論的な形で考えられていたところに、科学的なメスを入れてもらえて、物の見方が深まったと感じています。
テレワーク化などが広がりで、会う必要が無くても会わなければならないという状況を減らすことができるようになった。
だからこそ、リアルに会う人を選ぶようにしたい。それが、お互いのためにもなるのだから。
最後に、本書の中のこの言葉を引用して本記事を閉じることにしたい。
ありがたいことに、先進国では天然痘やポリオ、麻疹を心配する必要はなくなった。これは人類史における大躍進だった。
だが、かわりに私たちが苦しむことになった21世紀病は、当初の衛生仮説が示唆したような感染症減少の代償ではない。
衛生仮説とその中心的な教義である「感染がアレルギーその他の炎症系疾患を防いでいた」という考えは、一般市民も医療従事者もいったん捨てなければならない。
私たちに足りないのは感染ではなく、旧友だ。
かつて、ヒトの進化における無意味な名残と広く信じられていた虫垂は、じつは微生物の隠れ家で、人体免疫系の育成を担っていることをいまの私たちは知っている。
(中略)
人体の最古の友人と友情を温め直すチャンスは、まだ手の届くところにある。
(文庫版P.388)
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