本書は独自のメンタルモデル論を展開する由佐美加子さんが、「幸福学」で知られる前野隆司さんとの対談形式で、4つのメンタルモデルの可能性について大いに語っている本が出版されたました。
手元に届いたので、早速読んでみましたが、やはり、この理論は実にパワフルだなぁと改めて感じています。
適者生存OSと、つくりだしたい世界の発見
由佐さんは、私たちを突き動かしている無意識のシステムがあると述べている。
それを「適者生存OS」と呼び、大きく4つのモデルに分類できることを、延べ千人を超える方々と向き合う中で突き止めている。
人生の中で誰にでも起きてくる不本意な現実や出来事。適者生存OSは、それに伴う「痛み」から回避したいがために作り上げたものです。
しかし、残念ながら、そのOS自体が、皮肉なことに、逆に痛みを伴う現実を引き起こしてしまうということも指摘している。
僥倖すべきは、適者生存OSの背後には、「つくりだしたい世界」があるということに至っていること。そして、OSによるドライブから抜け出し、つくりだしたい世界の実現に向けて「統合」(いわゆる「自己実現」に近い。「実存的変容」とも。)していくプロセスにあるのが人類であると捉えている。
人類は統合に向かうように造られている
統合のプロセスは自然に動き出すものだと思っています。(中略)ですから必要なのはきっかけだけ。
(36ページ)
まず、本書から僕が一番感じるのは、由佐さんの、人類に対する絶対的な信頼です。
ここで紹介したものと、言い回しは変わっていますが、同じような意味合いの言葉が何度も何度も繰り返し出てきます。
これは、私たちに希望を与えてくれている。ややもすると、
「自分は、ちゃんと統合の道を歩めているのだろうか?」
と、人生の中で「痛み」と出会う度に思わず考えてしまいます。
由佐さんの視点は、私たちは、統合に向かうように造られているという絶対的な安心感を与えてくれる。
統合に向かう第一歩
とは言っても、統合に向かうためのコツのようなものも紹介されています。
「痛みはなくならないし、なくそうとする必要もない」ことを受け入れることが最初の一歩なんです。
(98ページ)
普通は、痛みに抵抗してしまうのが人間。
ただ、それが適者生存OSを生み出してしまったわけだ。そのOSの働きに自覚的になり、その動きを和らげたり止めてみる。
その代わりに、その痛みを観る/感じることに切り替えていくことを勧めています。
また、痛みがなくなることは無いが、統合へ進んでいくことで、生きることがどんどん楽になってきて、何が起きても大丈夫という感覚が芽生えてくるという。
どんなに統合が進んでも、痛みがなくなることは無いのであれば、そもそもとして、「無くそう」という発想自体が、戦略としても間違っていることになる。
逆に、積極的にその痛みと共にいるようにすることが、結局は自分自身を統合へと進めてくれるということ。痛みは進化の触媒であると位置付けています。
もしかすると、私たちが「痛み」と呼んでネガテイブに価値付けているものにも、私たちが気付いていない目的や役割があるということなのかもしれない。
進化し続けているメンタルモデル
2019年9月にも、メンタルモデルの書籍(『ザ・メンタルモデル』内外出版社)を出版されています。
この2冊を読み比べると、長年、このモデルを築き上げていらっしゃるのに、この間にも大幅な進化を遂げているのが分かります。
端的なのは、どのモデルかの判定について。
以前は「一人に一つ」と断言されていましたが、本書では、一つに決める必要はなく、誰でも4つの要素を持っているが、グラデーションがあるようだ。
でも、それを判定すること自体は目的ではないとも強調している(ここは変わっていない)。
ただ、私たち一人ひとりが統合へ向かっていくための「レンズ」として活用することを提案されている。
由佐さんが、メンタルモデルを完成させることではなく、進化させることにしか関心が無いのだなと感じさせます。その意味で、研究者の気質をお持ちなのかもしれません。
感想〜最新の、でも、あくまで入門書
読み終えて感じるのは、まだまだ、このメンタルモデルの価値は語り尽くされていないのだな、ということ。
正直、本書では、この理論の持つパワーのごく表面的なところにしか触れられてはいないのではないか。
それを行間からどうしても感じてしまいます。
ここから先は、やはり直接学ばせてもらったり、個人セッションを受けたりする必要があるのかもしれません。
あとは、現実に落とし込んで活用していくことで、自ずと深く見えてくるものなのかも。
感想〜克服型と逃避型の融和のツールになれば
個人的なことを書きたいと思います。
4つのモデルには、それぞれ「克服型」と「逃避型」の2タイプに分類できる。
僕は「逃避型」です。そのためか、克服型タイプの方に苦手意識があります。何かあると克服を勧めてくるから。
社会的にも克服型の価値観が尊重/評価されてきているという時代背景もある。
そのため、僕は克服型に対してNoというのが難しいと感じている。お互いに、自分自身がどちらのタイプかの自覚があれば、この辺りの隔たりを分かり合える道が拓けるなぁと、可能性を感じてる。
自分の課題と共に。
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まとめ
『無意識がわかれば人生が変わる』について書きました。
この理論を知るほどに、本当に人類の未来について希望が持ててくるなと感じている。
すべての人はメンタルモデルを持っている。
ということは、その裏に秘められている「つくりだしたい世界」も持っているということ。そのことに思いを致すと、何と宇宙は美しいのだろうと感じてしまう。
本文では触れませんでしたが、共著者の前野さんのメンタルモデルが僕と近いことが触れられていて、親近感を覚えた。
前野さんの幸福学などには、なんとなく距離を置いてきた。でも、振り返ると、彼の発する雰囲気から、直感的に自分と近いものを感じていたことに気づいた。
天邪鬼だが、近さを感じたが故に距離を置いていたのか。
改めて幸福学のほうにも目を向けてみたい。
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